2012/02/07

公平と競争

ノルウェーでは、大多数(98パーセント)の子供たちは公立の学校に通います。これは、私の同僚、つまり大学教授という、子供の教育にはうるさそうな人たちも、同じように子供を公立の学校に入れています。一方、うちの娘たち(6歳と3歳)は英国インターナショナルスクールに通っています。私立の学校です。これは、実は私ではなく夫のたっての希望(というか、娘たちを公立の学校に入れるなら、オレの屍をまたいでから行け、というほどの強い主張)によるものです。

夫はノルウェー人なので、もちろんノルウェーの公立学校に通いました。そして、その経験はあまり好ましいものではなかったようです。なぜかというと、ノルウェーの学校は、非競争を軸としています。小学校のうちは成績表もなし。「できる子」と「できない子」の区別をできるだけなくしているようです。そして、レベルは中くらいから下に合わせているので、「できる子」だった夫はおもしろくなかったようです(本人談)。がんばっても褒めてもらえず、できない子の手助けばかりさせられる。授業は簡単すぎてつまらないし、だからといって、できる子用に難しい問題を与えてくれるわけでもない。友達と遊ぶのは楽しいけれど、アカデミックの面では全く刺激を与えてもらえない環境だったようです。そして今、夫の姪っ子(11歳)が同じような境遇にあるようです。



ノルウェー人は「公平」ということに敏感なので、できる子を特別扱いするのは「不公平」となるのでダメなのでしょう。しかし、このシステムは、同時に「やる気」というものを削いでしまいます。私たちは経済学のトレーニングを受けているので、「インセンティブ」というものを重視します。もし、誰かに何かをして欲しかったら、やる気を起こさせる=インセンティブを与えるのが最も効果的であると考えます。例えば、ただ「勉強しなさい」と頭ごなしに怒鳴るよりも、勉強することが最適な選択となるようなインセンティブ、例えばお小遣いアップとか、を与えるのが最も効率的である、ということです。そして、「公平」重視の社会は、がんばっても報われないので、「より良く」という動機が働きません。

こうして子供たちにとっては、「努力する」という一見当たり前のことが当たり前でなくなってきます。これは、大学生を教えていても感じることです。ノルウェー人の学生は、アメリカ人やアメリカの大学で会った学生たちに比べて努力しようとしない傾向があるように思います。

しかし、これは一概にいいとか悪いとか言えないようにも思います。インセンティブ重視の競争社会が必ずしも人々を幸福にしないというのが、金融危機などであらわになりました。また、アメリカを目指してきた日本も、今格差が広がって社会問題になっています。「公平」と「競争」、という相容れない二つの要素がうまく溶け合っていないと、どちらかひとつではだめなのかもしれません。

さて、娘たちの通う私立学校が競争ばかりしているかというと、そんなことはありません。しかし、ノルウェーの学校に比べて勉強内容はかなりハイレベルですし(というか単にノルウェーが低いのですが)、年の終わりには、成績レポートも貰ってきます。読み書きなどは、子供のレベルに合わせた教材を使います。また、ノルウェー人の子供には欠けている、といわれる、基本的な躾(例えば先生の話はちゃんと聞く、とか)もちゃんと学校で学んできます。私たちは娘たちの学校に満足しています。でもノルウェー人に言わせると、子供にそんな勉強ばかりさせるのはかわいそう、もっと外で遊ばせないと、ということになりますが。

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