2012/05/09

「先生の話をきく」という能力

上の娘が行っているダンスのクラスは5、6歳、バレエのクラスは6,7歳を対象にしています。先日バレエの方の授業参観がありました。普段のレッスンは保護者立ち入り禁止で一体どんなことをしているのか分からないので、授業参観に行ってやっと、ああ、こんなことをしてたんだ、とレッスンの内容を知ることになります。私は自分ではバレエを習ったことがないので、6,7歳のレベルでどんなことをするのか全く分かりませんが、行って見た感想は、「もうちょっとビシバシいってもいいんじゃないの?」、というものでした。この年ではまだ「踊る楽しさ」を発見するのが優先、ということなのかもしれません。しかし、一応第一ポジション、第二ポジション、などとバレエの基礎をやっていましたが、なんというか、あまい。子供たちのポーズは「見よう見まね」程度のもので、細かいところまでチェックが入っていないのは、素人の私の目から見ても明らか。そして、残念なのは、先生が「もう少しこうやって」「背筋を伸ばして」みたいな、ちょっとした指導をしてあげたら、みんなもっと格段に上手になるだろうに、と思ったからです。

しかし、「厳しい指導」というものは、ノルウェーではあまり歓迎されないのかもしれません。「それじゃあ子供が可哀想」というセンチメントがあるように思います。また、厳しい指導についてくる「競争」や「優劣」みたいなものも、ノルウェーでは、少なくとも小学生のレベルではタブーのようです。上手になることより、あくまでも、みんな一緒に楽しく、というのがモットー。また、ノルウェーの子供たちはおそらく厳しい指導というものに慣れていないので、そんな指導を受けたら即親に報告して、親から先生に苦情が来るかもしれません。

また、よく聞くのは、ノルウェーの子供たちは先生に対する敬意というものがない、という話です。ウチの娘達は英国学校に通っているので、私は実際にノルウェーの幼稚園や小学校というものに触れた経験がないのですが、ダンスのクラスに来る子供たちとその親にその片鱗を見たような気がします。

まず、クラスに平気で遅れてくる。そして、学期の初めに、「レッスンの前にトイレを済ませておくように」と注意を受けているはずなのに、ちゃんと守らないので、毎回必ず何人か「トイレ~」と言ってレッスン中に出てきます。その度に先生は、レッスンを中断してその子をスタジオの外に出さないといけません。また、これは先生からチラッときいた話ですが、子供たちは、先生の話をちゃんときかない。そして、先生の話をきいていなければ、何をするのか分からない。上達もしない。

もちろん、これは一部の話であって、みんながそうだ、というわけでわありませんが、そういう一部の子供たちの態度がクラス全体のダイナミックスに影響するものです。それは、大学生を教えていても感じることです。全員とはいいませんが、似たような若者は大学にも沢山います。そして、そういう態度はクラス全体に伝播して、全体的にあまり先生の話に注意を払わない雰囲気というものが生まれてくることがあります。そして、一度そうなってしまうと、元に戻すのは難しいのです。

私たちは別に娘をバレリーナにしたいと思っているわけでもないので(いや、本人が本気でなりたい、と言うのであればサポートしますけど)、娘が楽しんでいるのならいっか、という気持ちもありますが、個人レッスンでもつけたら娘は格段に上達するだろう、と思ったのも事実です。また、単に私たちの偏見(親の欲目?)かもしれませんが、娘と、同じく英国学校に通う娘の友達のふたりは、グループの中でも他の子より上手だと思ったのですが、それは個人の能力云々というより、単にこのふたりは「先生の話をきく」ということに普段から慣れているからではないでしょうか。

もちろん、先生の話をよくきく子が将来絶対成功するか、というと、それも分かりません。子供の性格や個性によるとこともあるでしょう。しかし、そういう要素を一定に保ったとして(つまり、性格や親の教育レベルなどの社会的・経済的背景が全く同じ子供がふたりいると仮定した場合)学校の成績は悪いよりは良いほうがいいのではないでしょうか。だとしたら、先生の話をきくのは大切だと思います。(先生の言いつけを守る、ということとは違います。あくまでも、ちゃんと先生の言うことに注意を払っている、という意味です)

私がそのように思うのは、私もまた人にものを教える立場にあるためかもしれません。私たちは、体系的な知識を生徒達に伝えようと日々心を砕いています。知識をいうのは、もちろん自分で調べることもできますが、その分野に詳しい人から教えてもらう、というのはとても効率よく知識を得る方法です。分からない所は質問もできます。それなのに、学生の半分は講義に来ません。これは、どのクラスでも共通のようです。私などは「講義に来た方が後で自分で本を読むより効率いいのに」と思うのですが、先生の話をきき慣れていない人にはよく分かってもらえないのかもしれません。

1 件のコメント:

  1. 大変興味深い内容でした!私も人に教える仕事をしておりますので、面白いと読み込んでしまいました。特に5段落目は私も経験ではないですが、注意している点でありすごくうなづける部分です。(いつも生徒たちには厳しすぎるのでは?と逆に悩むこともあります。)

    これからノルウェーで…と考えてる身。ノルウェーでの教育方針参考にさせていただきます!!!

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