2012/04/30

博士課程ディフェンス


異様に忙しかった一週間が終わりました。アメリカ人の同僚が帰ったのと入れ替わりに、ノルウェーの大学でリサーチをしている日本人の若い研究者の人が来ていたのです。それに加えて、ノルウェー人の同僚の博士号のディフェンスがあり、さらに娘のバレエの発表会などもあって、本当に忙しかった!書き所盛りだくさんの一週間でしたが、とりあえず今日は博士号のディフェンスの話をしたいと思います。

学校や学部によって様々ですが、博士課程終了時に「ディフェンス」をするのは珍しいことではありません。ディフェンス(防衛)というのは、自分の研究について発表し、それに対してオポーネント(敵)がいろいろ質問し、またその質問に答えて自分の研究をディフェンド(防御)する、という一連の学術的なやりとりのことです。このディフェンスの形式も様々で、私が前に働いていたコロラドでは、ディフェンスは内部でのみ行われていました。つまり、オポーネントも出席者も学部内の人に限られていました。しかし、ノルウェーではこれが外部にも開かれています。オポーネントは二人いるのですが、二人とも学部外から招聘されます。内部で行われるディフェンスの場合、内部でのみ通用するような基準で評価がなされる危険性がありますが、外部評価の場合、国際基準で判定されるということです。また、誰でも出席できるので、学部外の人はもちろん、家族や友人まで来るので、緊張感も倍増です。そういう意味で、ノルウェーのディフェンスはかなりフォーマルです。

さて、ノルウェー人の同僚で、1月からポスドクを始めたばかりの女性がいます。彼女はもともと栄養士として働いていとのですが、博士を取ることに決めて、10歳から12歳くらいの子供の健康な食事習慣について研究していましたが、とうとう先日ディフェンスをしたのです。オポーネントは、その分野では国際的にも名の通っているベルギー人の女性研究者と、同じくその分野でいろいろ論文も出しているノルウェー人の男性研究者のふたり。名前は知っていても、特に面識はないそうで、一体どんな質問をされるのか、全くわかりません。彼女はもう一ヶ月も前から準備して、ずっと緊張しまくっていました。

当日、まずは「トライアル レクチャー」といわれるものから始まります。トライアルレクチャーは、2週間前に与えられた題について、1時間レクチャーするというものです。題は自分の研究内容に関連したものが与えられるようですが、それを一般の人にも分かるように、分かりやすくレクチャーすることになっています。会場のレクチャーホールは、50人ほどの人が彼女のレクチャーをきいていました。学部の人も沢山来ていますが、彼女の家族や友人らしき人たちの姿も見えます。彼女は落ち着いた様子でレクチャーを始め、内容もわかりやすくまとめてあり、とてもよくできたレクチャーでした。このレクチャーのあと、オポーネントと学部内の代表からなるコミティー(委員会?)が、今のレクチャーは博士号取得に値するかどうか審議します。それもかねて、昼食休憩が取られました。

右に立っているのが同僚。左はオポーネント。
昼食の後、今度はディフェンスが始まります。その前に、レクチャーは博士号取得に値する、という審議結果が発表され、とりあえず一安心です。さて、ディフェンスは、まず、キャンディデート(候補者)が自分の研究について発表するところから始まります。この時間20分。短い!過去4年間の研究成果を20分の発表に収めるのは大変です。この前までは45分だったのが、短くなったそうな。しかし彼女は自分の研究をうまく20分にまとめていました。

そして、醍醐味、オポーネントの登場です。オポーネントはキャンディデートの向かいに陣取って色々質問やコメントを投げかけます。キャンディデートはそれに対してひとつひとつ、答えていくわけです。オポーネントの方はいい人らしく、ちょっとジョークを言ってキャンディデートの緊張を解きほぐしたりしていて、こんな人がオポーネントだと、安心です。質問も大きな質問から細かい質問まで様々でしたが、彼女はよく答えていました。次のオポーネントも同じくフレンドリーで、またまた安心です。そうして、オポーネントが両方質問し終わると、またコミティーが別室で審議するわけですが、五分も待たずに、「合格」の発表がなされ、キャンディデートはみんなから祝福を受けていました。よかった、よかった。
さて、彼女の長い一日は、しかし、まだ終わりではありません。まず、ディフェンスが終わってすぐ、学部内でレセプション。シャンパンとちょっとしたおつまみなどをつまみながら、学部長のスピーチやら、みんなからの祝福やらが飛び交います。そして、この後、家族や親しい友人、同僚などを招いてのディナーが催されるのですが、私も招待されていたので、とりあえず家に帰ってドレスに着替え、会場のホテルに向かいました。


優雅なテーブルセッティング


みんなで乾杯。


ホテルではフォーマルなディナーがサーブされ、指導の教授や友人、同僚、また家族からのスピーチがありました。進行は、トーストマスターと呼ばれる司会役の人(別の同僚)が行い、彼女は歌を披露したり、みんなで歌う歌の歌詞をコピーしてきていたりしていました。こちらの結婚式にでたこのとある方はご存知と思いますが、スカンジナビアの人はこういう席で歌を歌うのが好きです。それも、機会に合わせた替え歌などを作ってきてう歌うのです。歌詞はみんなに配られ、みんなの知ってるメロディーで歌われます。たくさん飲んで、たくさん歌う。何かと言うと、スコール(乾杯)。まさに、バイキングな感じです。


こうして、美味しい食事とワイン、そしてたくさんの歌と笑いで彼女の博士号取得パーティーは進行していきました。私は家にゲストがいることもあり、早々に退散したのですが(それでも12時)、彼女は会場のホテルに部屋も取って、朝までパーティーよ!と意気込んでいました。それもそうでしょう。この一ヶ月は本当に大変だったはず。ここらで羽目を外して思いっきりパーティーしなさい。博士課程終了、本当におめでとう!

ノルウェーの大学で面白いのは、このパーティー、国がお金を出してくれるということ。一人当たりいくらで何人まで、という上限があるそうですが、少なくとも、パーティー費用の大部分はまかなえるよう。国が博士取得者に対してサポートをするだけでなく、こうやってパーティーの費用も出してくれるなんて、ちょっと粋ではないですか。

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