2012/04/11

女性の生き方

今日本から修士の学生さんがフィールドワークに来ています。彼女は、私が去年日本でノルウェーに関するセミナーをしたときに来てくださったときにお会いして、ノルウェーでフィールドワークをしたいということで、そのお手伝いをする約束をしたのです。彼女は日本とノルウェーの女性の生き方、もっといえば、女性の様々なライスステージでの就業の選択と、社会保障システムの関連に興味があり、私の働くスタヴァンゲル大学の学生を対象にアンケートを取りたいとのことでした。

たしかに、ノルウェーの女性は、「家庭か仕事か」「子供かキャリアか」みたいな選択を迫られる必要がありません。「家庭も仕事も」というのが普通だからです。比較的短い労働時間、認められている病欠の権利(子供や家族が病気のときももちろん使えます)、消化するのが当然の有給休暇、そしてもちろん、充実した産休・育休のシステム。また、父親も育休を取らなければならない「パパ・クオータ」のシステムで(「ノルウェーの産休・育休」参照)育休中の男女格差も是正する努力がなされています。職場での男女差別はタブー、それどころか、様々な女性優遇の制度もあります。

また、ノルウェーでは、女性も働くのが当たり前、という社会通念があります。ノルウェーでも昔は男性が外で働き、女性が家と子供の世話、という図式がありましたが、それは今はオールドファッションであると思われています。もちろん、今でも専業主婦という人たちはいますが、どうやらいくつかのパターンに分かれるようです。ひとつのパターンは、夫が社会的地位が高く、高所得であるが、その分仕事の拘束時間が長いので、奥さんが家庭を担当する、というケース。もうひとつは、どちらかというと低学歴、低収入であり、よりコンサバティブな夫婦である場合、昔どおりの、男は外、女は内、という図式を維持しているタイプ。あとは、奥さんが移民で、なかなか思うような仕事がみつからない、というケースもあるようです。もちろん、全部の専業主婦がそのパターンに当てはまるわけではありませんが、「専業主婦」というのは、ノルウェーではある意味正当化するのが必要な肩書きであるようです。ノルウェーでは、結婚していても、子供がいても働くのが当たり前なので、「専業主婦です」と言うと、「なんで?」という質問が返ってくるからです。



とはいえ、職種によっては就業時間が変則的であったりして、例えば子供の送り迎えなど、夫婦のみでやっていくのが難しいという場合も多々あります。近くに家族が住んでいて手伝ってくれる、というのもよくききますが、他に一般的なのがオ・ペアを雇うというものです。オ・ペアはメイドとナニーと国際交流を足して割ったようなもので、普通は外国からきた若い女性が家庭に住み込んで、子供の世話や家事を手伝いながら語学学校や大学に通う制度です。オ・ペアは欧米ではわりと一般的な制度のようです。ノルウェーでは人件費が高く、合法的にメイドやナニーを雇うのは高いですが、オ・ペアはそれに比べると安いようです。そのせいか、娘の学校でもオ・ペアがバギーを押して子供を送り迎えする光景をよく見かけます。私の同僚も、タイからオ・ペアを呼び寄せるための書類の準備に四苦八苦していました。オ・ペアの出身国は様々で、タイ、フィリピンなどのアジア系、ポーランドなどの東欧系、ロシア系、南米系、そしてフランスなど他の西欧系、といろいろです。オ・ペアで来て、そのまま現地のノルウェー人と結婚して永住するというケースもきっと多々あることでしょう。

というわけで、ノルウェーでは、女性は働くのが当たり前、働いていないと白い目で見られるほど、社会の生産的なメンバーであることが求められます。これは、国としては、優秀な人材、という資源を有効に活用しているわけですし、それによる税収が見込めるわけですから、女性就労を目指した政策というのは、社会的にみても理にかなっているのではないでしょうか。

一方、今の日本の女性は、一体どのような人生設計を描いているのでしょうか。日本に住んでいない私は、肌で感じる実感がないので、新聞や本で読む知識しかありませんが、独身女性の3人に一人が貧困層、など、ぎょ、とさせられる情報もみかけます。夢と現実、やりたいこととやらなければいけないことの狭間に悩むのは、日本でもノルウェーでも同じなのではないかと思うのですが、格差が少なく、賃金も高く、社会保障もしっかりしているノルウェーでは、個人の生き方という面では幅広い選択が可能なのかもしれません。

ところで、日本から来ている学生さんは、なんと62歳。30年以上専業主婦を続けた後に大学院に入って修士の勉強をしているそうです。彼女のような人もいるわけですから、日本の女性の選択肢もそんなに限られたものでもないのかも?

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