2012/10/29

ノルウェーのためなら

昨日テレビをつけたら、たまたまやっていたのが「Alt for Norge」という番組。直訳すると All for Norway。これは、ノルウェーのリアリティー番組で、10人ほどのアメリカ系ノルウェー人をノルウェーに招待し、毎週いろいろ競争させ(毎週ひとりアメリカに帰されることになっています)、最後に勝ち残った人がノルウェーの親戚に対面できる、という番組。この番組の趣向は、ノルウェー系アメリカ人というコンセプトを理解して初めて納得いくものです。ノルウェーは石油が発見されるまでは歴史を通してとても貧しい国だったそうで、よりよい暮らしを求めて沢山のノルウェー人が外国に渡りました。どのくらい沢山かというと、現在ではノルウェーに住むノルウェー人よりノルウェー以外の国に住むノルウェー系の人たちの方が数が多い、というくらい沢山です。その中でも沢山の人がアメリカに向かいました。私が住んでいたシアトルやカリフォルニアにもノルウェー系の人たちのコミュニティーがあったり、スカンジナビア系の食料品店があったりしましたが、特にノルウェー系の人が多くて有名なのはミネソタでしょうか。せっかくアメリカに渡ったのだから、もっと暖かくて気候の良いところに定住すればいいのに、なぜわざわざミネソタに?と私などは思ってしまうのですが、ミネソタの気候がより祖国に近かったからでしょうか(ミネソタの冬は寒くて有名です)。

さて、これらのノルウェー系アメリカ人たちは、人にもよるでしょうが、ノルウェーに対してとてもノスタルジックな感情を抱いていて、一度はノルウェーを訪れてみたい、と思っているようです。これはきっと、どの移民にも共通していることでしょうが、この感情は私のような移民第一世代の者には完全には推し量れないのではないかと思います。私は日本で生まれ育ち、日本についての直接的な知識も経験もあり、また、ちょくちょく日本に帰っています。もちろん日本を懐かしく思ったりしますが、それは第二世代以降が感じるであろう感情とは違うと思います。第二世代以降にとって祖国は大部分、直接の体験よりも又聞きの間接的な情報によるわけです。自分のルーツがそのような間接的な情報によってなっている、という状態は一体どういうものなのでしょうか。だいたい、日本にいる日本人は「自分のルーツ」なるものに対してわりと無頓着であるように思いますが、移民で構成されているアメリカ人にとって、自分のルーツや家族の歴史というものは、特別な意味を持つようです。そしてそれは、アメリカ系のノルウェー人にもいえることです。



さて、ノルウェーにやってきた参加者たちは、さまざまな関門を突破しなければなりません。競争は基本的にノルウェーの暮らしや文化に即するもので、「ノルウェー人らしさ」を競うものですが、そこはテレビ番組なので、エンターテイメント性も欠かせません。バイキングまがいの船の競争あり、ノルウェー語での罵倒大会あり、高校生と一緒に酔っ払いパーティーあり、「ひょっとして単にアメリカ人をコケにしたいだけなのでは?」と思わせるような企画が盛りだくさんです。しかし、同時に参加者のパーソナルなエピソードなども織り込んで、ヒューマンドラマも欠かしません。

今年で三シーズン目のこの番組を、私は第一シーズンから見ています(毎回は見てませんが)。そして、いまだに鮮明に覚えているのが、第一シーズンを見たときのショックです。それは、どんなにコケにされても失われない、彼らのノルウェーに対するポジティブな態度に大きなショックを受けたのです。その番組を見始めた頃、私は在ノルウェー1年ほど、ちょうどノルウェーの暮らしに馴染めず、不満が爆発していた頃でしょうか。ノルウェーは暮らしやすい、といいますが、(このブログにも何度か書きましたが)日本やアメリカとはちがったフィロソフィーに基づいて社会が動いているため、馴染むのに時間がかかります。いくらノルウェー系とはいえ、アメリカからやってきた彼らも沢山のカルチャーショックがあったことでしょう。しかし、彼らは「憧れのノルウェーに来たのだ!」という嬉しさに溢れていて、いろいろな違いや戸惑いも含めて、ノルウェーを体験できてものすごく嬉しい!とキラキラした目で語ります。そんな彼らのまっすぐな様子を見て、私ももう少し態度をポジティブに改めよう、と反省したものです。

ノルウェーに移って4年経ちますが、やはり私にとってノルウェーは住んでる国、ではあっても、愛国心をかきててるような存在ではありません。これは、この先ノルウェーにもっとながく住むことで変わるのか、それとも一生変わらないのかわかりませんが、この国が娘たちにとってのメインの「祖国」となることは確実です。そう思うと、やはりノルウェーは私にとって特別な国であると思います。そして、彼女たちも、大きくなったとき、彼女たちなりのもうひとつの祖国「日本」を、アメリカ系ノルウェー人がノルウェーを「発見」するように、彼女たちなりに体験するのでしょうか。

3 件のコメント:

  1. 大変面白い内容でしたのでコメントいたします。外に出てるからこその思いがあると思います。私自身近々ノルウェーへ移住予定ですが、やはり愛国心は・・・正直わかりません。しかし、将来子供、孫・・・と自分の祖国を大切にしてほしいと思う気持ちは出ると思います。そこでアクションを起こすことが、私たちの使命かもしれませんね。(大きなこと申し上げてすみません。)

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  2. こんにちは。いつもためになる情報ありがとうございます。yuko様が感じたショック何となくしかお察し出来ませんが、外国で生きることの切なさのような物を感じずにはいられませんでした。
    来年あたり私もノルウェーに住むことになりそうです。またブログを楽しみにしております。

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  3. とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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