2012/10/11

「ムラカミ」のちから

日本で「ノルウェーに住んでいます」と言うと、「ノルウェーってどこでしたっけ?」とか、「ああ、ボルボ(もしくはノキア)で有名ですよね」などの返答が返ってきて、「ノルウェーは北欧です」とか「それはスウェーデン(もしくはフィンランド)です」とか答える度に、ノルウェーは日本人には知られていないなあ、という事実を確認します。では、その反対はどうか、というと、ノルウェー人も、日本のことをそんなによくは知らないのです。タイくらいまでなら、バケーションで行ったり、近所にタイ人が住んでいたりして知っているようですが、その先の東アジアとなると、まだまだ未知の領域であるようです。

そんなノルウェー人にとって、日本と言ってまず思い浮かぶのはおそらくトヨタやソニーなどの日本の有名メーカではないでしょうか。日本車はノルウェーでも人気ですし、日本の会社の電気製品もよく見かけます。また、この頃スタヴァンゲルでもやっと寿司が定着しつつあり、普通のスーパーでもパックのお寿司が並び(美味しくないけど)、寿司用のネタ(といってもサーモンのみ)や、わさび、甘酢漬けのしょうがなどを見かけるようになりました。

しかし、ソニーや寿司以外に、「日本」と言ってノルウェー人の心に浮かぶようになったもの、それは「ムラカミ」。もちろん作家の村上春樹さんのことです。私が「日本人です」と言うと、「僕はムラカミが大好きなんだ」とか、「私はムラカミのファンなの」と言ってくる人がたくさんいます。私もファンなので、それでムラカミの話で盛り上がったりするわけですが、彼らは私より熱心にムラカミの本を読んでいたりします。ムラカミ好きがきっかけで日本に行った、留学した、という話もきくほどです。同僚の友人のノルウェー人女性は、日本に行ったばかりでなく、その体験をもとに小説を書いて本まで出しちゃったそうです。


村上さんはもちろん世界中で人気であり、私もアメリカに住んでいるときからこうした「ムラカミ好き」のコメントに出会っているのですが、ノルウェーという、また全然違う国でも、こうして広く受け入れられているのを実際に感じて、村上さんのユニバーサルなアピール力に感心するばかりです。そして、「ムラカミ好き」という人たちは、日本に行ったことがある、ないに関わらず、みんな日本に対して好意的な感情をいだいているようです。また、村上さんの作品はほとんど日本を舞台にしているわけですが、彼の独自の世界観で日本の神秘性のようなものが増幅され、日本に対して神秘的、精神的、ストイック、などのイメージを持っているようです。

それが実際の日本を描写しているかどうかは別として、そうやって日本に対するポジティブなイメージを沢山のノルウェー人に広めていただいたことで、ノルウェーに住む日本人の私は随分と恩恵をこうむっているように思います。村上さんを通して日本に対して興味を持つ、というレベルにとどまらず、日本という国に対する「リスペクト」を喚起する、とまで言えるかもしれません。村上さんの作品は、その作品自体を楽しむ、という直接的なベネフィットに加えて、そうした間接的なベネフィットも多大に作り出しているわけです。そして、そのベネフィットは、ノルウェーばかりではなく、世界中に住む日本人が感じているのではないでしょうか。賞を貰うとか、貰わないとか、そういうことに関係なく、「ムラカミ」の力は凄い!

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