2013/03/07

人生の分岐点

先日、アメリカ人の博士課程の学生とお茶しました。彼女はアメリカの大学でイノベーションについて勉強しているのですが、フルブライト奨学金で今スタヴァンゲル大学のに留学中なのです。来月とうとう博士ディフェンスということで、今博士論文を完成させるのに大忙し。ということは、もちろん同時進行で職探しもしなければならないわけです。そんな彼女から、今後の進路を決める参考にしたいので、あなたの経験についてきかせて欲しい、と言われて、まあ、私の経験で役に立つのなら、と一緒にお茶をすることにしました。彼女はノルウェー系アメリカ人で、ノルウェーに親戚もたくさんいるほどノルウェーとの結びつきは強く、またノルウェーでの暮らしも大変気に入っているようです。

優秀な彼女は、アメリカのコーネル大学からほぼ内定をもらっているのだそうですが、少なくとも始めの半年は講師扱い、つまりテニュアトラック(なぜノルウェーに住んでいるんですか?参照)ではない、そしてそのテニュアトラックに移れる保証はない、という、少しリスキーなオファーであるようです。しかし、今後のキャリアを構築していく上で、名門大学の肩書きは魅力的です。また、名門大学の肩書きがもたらすチャンスやネットーワークの可能性も見逃せません。彼女もその点はしっかり考えているようで、何年コーネルにいることになるかはわからないけれど、そこにいる間にコーネルの名前を使ってできることをできるだけする、という計画のようです。私が、「このチャンスを短期の投資と思って今後の土台作りに専念するかたわら、長期の展望も練っておくのがいいんじゃないの?」と言ったらずいぶん納得していたようでした。

彼女は30歳。微妙な年頃ですが、現在とくにボーイフレンドもいないそうで、そういう意味では機動性には問題ないようですし、短期の投資をするにはちょうど良い機会なのかもしれません。しかし、同時に、名門大学のテニュアへの道はたいへん厳しいと想像します。ということは、もしテニュアトラックへの道が開けたら、その後の5年間は馬車馬のように働くことを意味します。彼女もそれは承知の上です。そして、彼女はできればライフ・ワークバランスの取れた生活を送りたいとも思っていて、長期的にはノルウェーの大学の戻って来たいそうです。その意味でも、コーネルの名前が彼女の履歴書にハクを付けてくれるはずですし、コーネル時代に培うネットワークは、たとえノルウェーに移っても役立つでしょう。つまり、短期の投資と長期の展望。コーネルにいる間は多少ライフ・ワークバランスが崩れることはあるかもしれませんが、短期間と思って割り切れば乗り切れるのではないでしょうか。そして、ノルウェーに移るのが長期の目的であるならば、ノルウェーの大学の求人情報などに目を光らせておけば、移り時も分かります。もしコーネルが気に入って留まりたいと思えば、それも可能です。そういう意味で、フレキシブルな計画です。


「他に何かアドバイスある?」ときかれて、余計なお世話と思いつつもついつい口をついてでてきたのは、「パートナーを見つけるのは早いほうがいいよ。」すいません、本当に余計なお世話です。しかし、実際問題として、年を取ればそれだけパートナーを見つけるのが難しいのはどこでも同じだと思います。ちょっと前に離婚したばかりの、ものすごく性格が良くて仕事もできるノルウェー人の男性同僚(43歳)が再婚相手に選んだのが15歳も年下の女性であると知ったときは軽いショックを受けました。こんなに性格の良い彼ですらも若い女性の方がいいのか、と思ったからです。まあ、性格はあまり関係ないかもしれませんし、また、相手の女性も年齢だけで選んだわけはないと思いますが、やはり、結果として選んだのが若い女性であったのは、私にとってある意味象徴的でした。個人差や国別の違いはあるとはいえ、やはり女性は年を取るほどマーケットが縮小してゆくのだ、と。子供が欲しいならばなおさらです。

彼女は今確実に人生の分岐点にあります。彼女の明晰な計画性からして、きっとキャリアでは成功していくのであろうと想像します。しかし、ワーク・ライフバランスを尊重したい、と言う彼女に、私は、だったら彼氏もキャリアと同時進行で探してね!と言わずにはおれなかったのです。日本でもアメリカでも、キャリアと家庭は、女性にとって二者択一な感じがしてしまうのも現実です。しかし、ひとつしか選べない、という環境はリスキーです。「全部の卵をひとつのバスケットにいれちゃだめ」とはリスクは分散すべし、ということのわかりやすい例えですが、キャリア、とか、家庭、とかの「ひとつだけ」の選択は、まさに、卵を全部そのバスケットに入れてしまっている状態です。なので、うまくいかなかった場合に逃げ場がありません。損失をまるまるかぶってしまいます。

人間だれしも人生の分岐点に立つものです。そして、そのときのベストの選択をするわけですが、それがうまく転ぶかどうかなどは分かりません。どんなに細心の注意を払って、全ての要素を考慮に入れて、一番よいと思われる選択をしたとしても、です。そして、それは誰にでもいえることです。となると、たとえ間違った選択をしてしまったり、うまくいかなかったりしても、そこからやり直しがきく、というのが大切です。そういう意味で、ノルウェーは、若いうちに一人くらい産んで、その後キャリアを構築する、というのもよくあるパターンですし、子連れ婚もざらです。やり直しも軌道修正もかけやすい環境なのです。ノルウェーの女の子が「リスクは分散しなくちゃ!」と思ってそのような選択をしているとは思えませんが、社会全体がそういう環境をつくっているのではないでしょうか。

2 件のコメント:

  1. いつも楽しく読ませて頂いています。どこの国もキャリア構築と出産の問題はありますよね。。
    日本は文部科学省管轄の幼児園は定員割れしているのに、厚生省管轄の保育園は待機児童ばかりです。
    省庁の壁を取っ払ってという発言は民主党が与党の時代に何度か聞きましたが、省庁と名門私立などの利権が絡むのか進展はなし。
    国民の数は国力になります。私はベビーブーム世代で、常に競争社会で過ごしていました。結果、周りは社会の情勢もありますが、外資系の会社勤務や海外生活者が多く、軽く国境を超える力を蓄えることができました。
    今の日本の子供は少子化で、全体で国際社会で闘う力が持てる子供の数がどれくらいか、心配になります。
     今当面は高齢者の問題があり、それをまかなうために女性の力が必要ですから、日本のヤマは動かないと思います。
    日本は時間短縮で働けるのは子供が満3歳まで、それからは通常に働くように今の法律ではなっています。3歳から子供が自立するわけではないので、せめて小学校卒業まで時間短縮を設けるべきですよね。
    ダブルインカムは内需拡大にもなりますから。
    私が通っていた女子大の先生はみんな子供が小学校卒業まで時短で働き、キャリアアップしていました。
    ちなみにキャリアアップが早いのは、Yukoさんがおっしゃっている通り早期結婚&子育てと思います。
     

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    1. 本当に、日本の政策は、現状を改善する気があるのかないのかわからないような、なまぬるいものが多いですね。塩野七生さんの「ローマ人の物語」で読んだ、古代ローマの少子化対策は、子ナシの市民にかなり大胆な社会的・経済的なペナルティーを課していて、同じものを現代にするのはムリとしても、「それくらいしないと効果がないのか」という意味でおもしろいです。

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