2013/02/17

仕事と育休と移民女性

ちょっと前に日本人の集まりで、スタヴァンゲルに越してきたばかりの若い女性にお会いしました。彼女は今妊娠7ヶ月。初めての出産を外国で、という勇気ある女性でしたが、やはり引越直後は大変だったようです。前にも書きましたが、ノルウェーに居住する人はみんな自分の社会保障番号を持っています(ノルウェーの共通番号制度)。ノルウェーに引っ越してきたら、とにかくこの番号を取ってしまわないと、いろいろ不都合がでてきますが、番号をもらう手続きもめんどくさく、私も何度も窓口に出向いたのを覚えています。妊娠中となると、毎月検診にかかるわけですが、これも、社会保障番号がないと大変です。ノルウェーでは、みんなファストレゲとよばれる、かかりつけのジェネラルドクターを持っています。これも、社会保障番号をもらってから、自分の住む地区でまだ患者を取る余裕のある医者を政府のウェブサイトで検索して見つけるのです。妊娠したかな、と思ったら、普通はこのファストレゲに検診してもらい、その後お産婆さん(ミッドワイフ、ノルウェー語ではヨードモー)や必要とあれば産婦人科の専門医に診てもらいます。しかし、これは妊婦に限らず、ノルウェーではまずファストレゲに診てもらって、必要に応じてファストレゲが専門医に紹介状を送る、というふうになっているので、ファストレゲがすべての医療の窓口となります。なので、ファストレゲがいないと、誰にも診てもらえない、という状態になってしまうのです。しかし、ファストレゲを得るには、社会保障番号を持っていないといけません。反対に、社会保障番号さえ持っていれば、なんでもかなりスムーズに進みます。

前述の女性も、やはり始めは色々苦労があったようですが、自分も同じような境遇であったことを思えば、「やっぱりね」というノルウェーの制度に対するあきらめを感じこそすれ、驚きはしません。しかし、彼女と話していて私がびっくりしたのは、奥さんが働いていない場合、旦那さんは育休が取れない、ときいたからです。ノルウェーの寛容な産休・育休制度につても前に書きましたし、私も夫もこの制度で日本では考えられないような長い有給の育休を取ったのです。しかも、パパクオータと呼ばれるパパの割り当ては増える一方で、今では10ヶ月から一年の産休・育休のうち、最低12週間はパパが取ることになっているのです。これも、子供には父親の育児の参加が不可欠であるという理念に基づいた政府の方針によるものです。それなのに、母親が働いていない場合は育休がとれない、とはどういうことでしょうか。父親の育児参加は母親の職の有無に関わらずに大切なのでは?

納得のいかない私は夫や周りの人にその制度についてきいたのですが、どうやらそれは本当のようです。しかし、自分や同僚など、私の周りは働いている人がほとんどだったため、今まで知らずにいました。しかし、この制度は父親の育児参加の奨励という政策との一貫性に欠けるのでは、という私の疑問については、他の政策との関連が指摘されました。すなわち、女性の労働市場参加の促進です。この、母親が働いていない場合父親の育休ナシ、という制度は、母親が働いていない家庭にとっては、明らかに損な制度です。つまり、女性は働いていた方がこの場合トクなのです。女性が労働市場に参加することに対するインセンティブが働くわけです。ただでさえ物価が高く、住宅はさらに高いノルウェー。共働きでもないとやっていけない、というのが実情だとしても、実際に共働きが当たり前。育休制度でも共働きの方が明らかに優遇されているようです。比較的緩めの労働環境も加わって、共働き、というか、女性が労働市場に参加したくなるように社会全体が動いている感じです。


しかしながら、移民女性の就職は決して簡単ではないようです。なにしろ、ノルウェー語ができないと絶対的に不利な上、たとえノルウェー語ができたとしても、やっぱりノルウェー人よりは後回しにされてしまうのが現実です。日本や日本語を武器に、などど言っても、日本人が少なく、日本語の需要も少ないノルウェーでは難しいでしょうし、英語もできて当たり前なので、英語ができたところで、これといって有利には働かないのではないでしょうか。もしノルウェーで「キャリア」を構築したいと思うのであれば、英語ができるのはとりあえず当然として、さらにプロフェッショナルといえるスキルが必要であると思います。スキルは、ノルウェーで会得してもよいのです。大学だって授業料はタダなので、生活費の当てさえあれば、大学に通ってノルウェー語とプロフェッショナルなスキルを身につければよいのです。また、地域によって、どのようなスキルが求められているのかはまちまちだと思うので、自分のいる地域の需要のリサーチも大切だと思います。例えば、スタヴァンゲルではオイルが大きな産業で、オイル関係のエンジニアなどは求人も沢山あるようです。しかし、娘のインド人の同級生のお母さんはエレクトリカルエンジニアなのだそうですが、スタヴァンゲルではなかなか職が見つからない、と言っていました。

しかし、私は自分も働く身として、ノルウェーに住むベネフィットを肌で感じるには、やはり自分で働いてみるのが大切だと思うのです。ノルウェーは他の国に比べて、働く親にとってとても住みやすい国だと思うからです。また、働くことで得られる社会との結びつきも、外国人としてノルウェーに住む上でとても大切だと思います。これは、ノルウェーだけでなく、どこ国でも同じだとは思いますが、日本人も少なく、日本からも遠く、天気も悪く、物価も高く、生活面でも違いのあるノルウェーでは、アメリカなどと比べると、働くことで得られるトクはより大きいのではないかと思います。

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